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併用療法によるイブルチニブ投与患者の血圧低下

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Blood Advances誌に発表された新研究によると、2種類以上の降圧薬の併用により、イブルチニブ服用患者の血圧を有意に低下させることができる。

イブルチニブのような標的薬はリンパ系のがん患者の予後を改善した。しかし、イブルチニブや他の同クラスの薬で治療した患者は、しばしば新たな高血圧(または高血圧症、HTN)を発症または悪化させる。この潜在的に深刻な副作用を治療する最善の方法を検討した研究はほとんどなく、医師を最も効果的な治療へと導く正式なガイドラインも存在しない。

「われわれの知る限り、これはイブルチニブ投与患者における高血圧の最適な治療法を検討した最初で唯一の研究である」と、本研究のシニアオーサーで、Fred Hutchinson Cancer CenterおよびUniversity of Washington School of MedicineのMazyar Shadman氏(MD, MPH)は述べた。「われわれの知見は、特定の降圧薬の併用による積極的な治療が、この患者集団において血圧を有意に低下させることを強く示唆している。」

研究者らは、患者がイブルチニブによる治療開始前に高血圧であったか、服用中に高血圧を発症したかによって、異なる薬剤の併用がより効果的である可能性があることを発見した。

2013年から発売されているイブルチニブは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬と呼ばれるこのクラスの薬剤としては初めて、マントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、その他の特定のリンパ系がん患者の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。「いくつかの研究で、BTK阻害薬は患者に新たな高血圧を発症させたり、高血圧を悪化させたりする可能性があることが示されている」と、本研究の筆頭著者で、同じくFred Hutchinson Cancer CenterとUniversity of Washington School of MedicineのLaura Samples氏(MD)は述べた。

「ある研究では、イブルチニブ治療患者の78%以上で、中央値30ヵ月間にわたりこの傾向がみられた」と、Samples氏は述べた。「高血圧がコントロールされないと、心臓発作、心不全、脳卒中など、重大な心血管有害事象を引き起こす可能性がある。」

本研究に関して、Samples氏とShadman氏らは、米国の14の医療センターのうちの1つで、2014~2018年の間に少なくとも3ヵ月間、BTK阻害薬と1つ以上の降圧薬による治療を同時に受けた196例の患者の医療記録を調べた。研究参加者のほぼ93%が白人で、平均年齢は67歳、男性が約71%、女性が約29%であった。患者は次の2群に分けられた。BTK阻害薬による治療開始前に少なくとも1種類の降圧薬を服用していた患者(HTN先行群118例)と、BTK阻害薬による治療中に1種類以上の降圧薬の服用を開始した患者(治療開始後に新たに高血圧を発症した群78例)。

研究者らは降圧薬を4つのグループに分類した。ACE阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ヒドロクロロチアジドである。この試験の主要評価項目は降圧治療の有効性であり、平均動脈圧(MAP:患者の1心拍周期中の動脈の平均圧)の平均低下で評価された。

その結果、β遮断薬とヒドロクロロチアジドを併用したHTN先行群では、平均約5mmHg(血圧の測定単位)の統計学的に有意なMAPの低下が認められた。ヒドロクロロチアジドとACE阻害薬またはARBを併用した新規HTN群も、同様のMAPの低下を達成した。β遮断薬とヒドロクロロチアジドを服用している両群の約15%は、研究者らが正常と分類した血圧範囲(120/80以下)に達していた。

「われわれの研究結果は、この患者集団においても、一般的な高血圧患者と同様に、血圧コントロール成功のためには、複数の薬剤による治療が必要であることを裏付けている」と、Samples氏は述べた。

本研究結果は、なぜ特定の併用療法が他のレジメンより有効なのか、あるいはなぜ異なる併用療法が既往高血圧患者や新規発症高血圧患者において最も有効なのかについて解明するものではないと、Shadman氏は付け加えた。「しかし、他の研究者らがわれわれのデータを分析することで、これらの疑問に対する回答をみつける可能性がある」と、彼は述べた。

本研究の限界は、レトロスペクティブ研究であることである。つまり、患者の医療記録を遡って、どのように治療され、どのような結果が得られたかを判断するというものである。「BTK阻害薬服用患者における最も効果的な降圧療法に関する正式なガイドラインを作成するには、大規模前向き研究が必要である」と、Samples氏は述べた。

第二に、患者の血圧測定は診察時のみであった。医師の診察室やその他の臨床の場で測定された血圧は、結果にばらつきがあることが研究で示されている。「今後の研究では、可能であれば、24時間血圧を測定するウェアラブル機器を用いて患者の血圧を測定すべきである」と、Shadman氏は述べた。

最後に、本試験では90%近くの患者がイブルチニブを服用していた。残りの患者は、アカラブルチニブや、2019年にFDAの初承認を受けたザヌブルチニブなどの新しいBTK阻害薬による治療を受けていた。本研究データは、イブルチニブが第二世代の薬剤よりもまだ一般的であった時代のものであった。「研究によれば、これらの新しい薬剤服用患者は依然として重大な心血管有害事象のリスク増加に直面しているが、そのリスクはイブルチニブよりも低い可能性がある」と、Samples氏は述べた。

 「血圧上昇はBTK阻害薬による治療の“クラスエフェクト”であることを考えると、医師も患者もこのリスクを認識しておく必要があり、患者の血圧を定期的にモニターし、上昇が検出されたら直ちに治療を開始すべきである」と、Samples氏は述べた。

本試験は、AstraZeneca社の資金提供を受けた医師主導の試験である。

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