抗凝固薬の12ヵ月投与は軽微な凝血塊を有するがん患者の転帰を改善する
英語オリジナル版はこちらESC Congress 2023(2023年欧州心臓病学会学術集会)の本日のHot Lineセッションで発表された最新研究によれば、エドキサバンの12ヵ月投与は、がんおよび遠位型深部静脈血栓症(DVT)を有する患者の血栓イベントの低減に関して3ヵ月投与よりも優れている。
DVT治療の主流は抗凝固療法である。しかし、孤立性遠位型DVTを有するがん患者に最適な抗凝固戦略はまだ確立されていない。ONCO DVTは、がん患者の孤立性遠位型DVTに対して経口第Xa因子阻害薬エドキサバンの2つの異なる投与期間を比較した最初のランダム化試験である。
この多施設共同、オープンラベル、評価者盲検、優越性試験は、エドキサバンの12ヵ月投与と3ヵ月投与を比較するために計画された。本試験では、活動性のがんを有し孤立性遠位型DVTと新規に診断された患者を登録した。DVTの診断は、compression ultrasonography(圧迫超音波検査)によって確定した。ランダム化時点で抗凝固薬を服用中の患者、エドキサバンが禁忌となる患者、予後が3ヵ月以内と予測される患者、または肺塞栓症を有する患者は除外した。
2019年4月~2022年6月に日本の60施設で604例の患者を登録した。被験者の平均年齢は70.8歳であり、433例(72%)は女性であった。がんの部位別頻度は卵巣がん(14%)が最も高く、次いで子宮がん(13%)、肺がん(11%)、大腸がん(9%)、膵がん(8%)の順であった。その他のがん種は、胃がん(5%)、血液がん(5%)および乳がん(5%)であった。
患者は、エドキサバン12ヵ月投与群と3ヵ月投与群に1:1でランダムに割り付けられた。エドキサバンは60mgの固定用量で1日1回経口投与した。ただし、クレアチニンクリアランスが30~50mL/分の患者、体重が60kg以下の患者またはP糖蛋白質阻害薬の併用投与を受けている患者には、低用量の30mgを1日1回経口投与した。
主要評価項目は、12ヵ月時点での症候性再発性静脈血栓塞栓症(VTE)またはVTE関連死である。副次評価項目は、12ヵ月時点でのInternational Society on Thrombosis and Haemostasis(ISTH)の基準に基づく大出血イベントである。
主要評価項目は、12ヵ月投与群では296例中3例(1.0%)、3ヵ月投与群では305例中22例(7.2%)で発生した(オッズ比[OR]=0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。大出血は、12ヵ月投与群では296例中28例(9.5%)、3ヵ月投与群では305例中22例(7.2%)で発生した(OR=1.34、95% CI:0.75~2.41)。事前に定めた年齢別、体重別および腎機能別のサブグループ解析の結果、主要評価項目の推定値への影響はみられなかった。
研究代表者である京都大学の山下侑吾医師は、次のように述べている。「孤立性遠位型DVTを有するがん患者において、エドキサバン12ヵ月投与は症候性再発性VTEまたはVTE関連死の複合アウトカムに関して3ヵ月投与より優れており、大出血の発生率には差がみられなかった。これは、孤立性遠位型DVTを有するがん患者の血栓イベントの低減に関して抗凝固薬長期投与の短期投与に対する優越性を明らかにした最初で唯一のランダム化試験である。この結果が腫瘍循環器学分野における診療および臨床ガイドラインに変革をもたらすと期待している。」