がん治療中の血栓塞栓症発症リスクを事前に評価するために、京都大学医学部附属病院循環器内科の大学院生、中村栞奈(なかむら・かんな)氏と助教で病棟副医長の山下侑吾(やました・ゆうご)氏らは、がん遺伝子パネル検査により網羅的に解析する手法を確立、3月20日から22日にかけて福岡で開催された第90回日本循環器学会学術集会(JSC 2026)で報告した。また学会発表と同時にISTHの機関誌であるJournal of Thrombosis and Haemostasis誌に論文が掲載された(J Thromb Haemost. March 4, 2026 [Online ahead of print])。
血栓症患者419人の遺伝子変異を解析
がんの罹患や薬物療法、放射線治療、手術、中心静脈留置に伴って発症する血栓性疾患はがん関連血栓症(CAT)と総称される。なかでも最も頻度が高いのががん関連静脈血栓塞栓症(cancer-associated VTE)である。ASCOのガイドラインなど国際的なガイドラインでは治療開始前にがん関連VTEの発症リスクを評価し、抗血液凝固剤の予防投与を行うことが推奨されている。
その際に重要になるのが、がん関連VTEの発症リスクを正確に評価することである。現在では患者関連因子やがん関連因子などを考慮したKhoranaスコアやVinnaスコアなどがVTEリスクの層別化に用いられている。欧米人のデータをベースに構築されているため、日本人の評価に用いるには限界もあると指摘されている。
一方で、がん遺伝子パネル検査(CGP)は2019年に保険償還の対象となり、現在ではがん治療方針の決定に日常的に用いられている。そこで中村氏と山下氏らは、CGPを用いて、がん関連遺伝子変異を検索することにより、CGPをがん関連VTEの発症リスクの把握に使うことを思いついた。
324個と国内CGPの中で最多のがん関連遺伝子変異を搭載し、2019年以来最も多くの症例データをもつFoundationOne®による検査を使って、がん関連VTEのリスク評価研究を開始した。2015年3月から2024年6月の間に京都大学医学部附属病院を受診したがん患者1,079人を対象とし、VTEの既往があるなどの理由で667人を除外、残った412人のデータをC-CATを介して収集した。フォローアップ期間中央値693日の段階で59人(14%)がVTEを発症した。
個々の遺伝子変異ごとにHR(adjusted HR)値を算出すると、「1.0」を超えた遺伝子変異はTP53(HR=1.71)、CDKN2A(HR=2.06)、KRAS(HR=2.35)、CDKN2B(HR=1.58)、MTAP(HR=1.58)、ERBB2(HR=1.74)、KEL(HR=1.68)などが認められたが、統計学的に有意差を認めた遺伝子変異はなかった。
1,600人目標のONCO CARDIO Registryを開始へ
中村氏と山下氏はVTEなどの腫瘍循環器関連疾患と遺伝子変異との関係を調べるため、今回の臨床研究のプロトコルを参考に、より大規模な遺伝子観察研究を開始する。プロジェクト名はONCO CARDIO Registry。大阪国際がんセンター、国立がん研究センター、がん研有明病院や大学病院など全国の有力がん治療施設、合計39施設から症例データを集める計画だ。「目標症例数は1,600例。最大の特徴は、VTE・出血に加え心不全、不整脈、脳卒中、心筋梗塞の合計5種類のイベントについても調べることにしている」(中村氏)ことだ。
これらの疾患と遺伝子変異については少ないサンプル数で解析したデータもあったが、今回の登録研究ではこれまでにない規模の大きな集団で解析することになり、日本にマッチしたKhoranaスコアを構築することも夢ではない。山下氏は「今年の4~5月から症例集積を開始し、2028年に結果を発表したい」と語っている。
中村氏は当初、造血器腫瘍の専門医になることを目指していたが、アントラサイクリン心筋症の症例を経験したことが契機となり、腫瘍循環器医を志すようになったという。

