「腫瘍循環器外来 実態調査2025」報告 診療報酬の裏付けを求める声が急増「腫瘍循環器外来 実態調査2025」報告 診療報酬の裏付けを求める声が急増

本サイト「腫瘍循環器の広場」では2023年に続き、2025年も日本腫瘍循環器学会の協力のもと「腫瘍循環器外来 実態調査」を実施した。これは、わが国の医療における腫瘍循環器医療の普及とその活動度、ならびに直面する課題などを明らかにするものである。

調査は2025年7月8日から8月7日まで1カ月間にわたり、日本腫瘍循環器学会会員を対象にパソコンやスマートフォンを経由して行った。会員915名を対象に質問を送り、71名からの回答を得た(回答率8%)。性別では男性58名、女性13名であった。年齢別では30歳台6名、40歳台26名、50歳台30名、60歳以上9名であった。

39.4%の機関で腫瘍循環器外来が開設

勤務先に腫瘍循環器外来が開設されているかを質問したところ、39.4%(回答者数:28名)で既に開設されていることが明らかになった。2025年に開設されたのは3施設にとどまり、開設機運がピークアウトしている可能性が示された。また現時点(2025年8月)で開設予定があるとの回答が3名あった。

腫瘍循環器外来を既に開設している、あるいは開設予定と回答した31名について、開設頻度を尋ねたところ(回答:30名)、「週1日」が19名と最も多く、「週2日」4名、「週3日」2名、「週5日」2名、「毎日」が1名であった。1週間で腫瘍循環器外来を受診する患者数を尋ねたところ(回答数:27名)、「週に10名」(回答数:6名)、「週に2名」(同:4)、「週に15名」(同:4)、「週に3名」(同:3)、「週に5名」(同:2)、「週に50名」(同:2)であり、「そのほか」という回答の中には、「週に1名」から「週に250名」までのばらつきが認められた。これは医療機関の性格(がん専門病院であるか否かなど)や担当する医療者の関与の程度の違いを反映していると推察された。

合併症のトップは心機能障害

治療に伴う血管合併症について患者が多い順に3つ選んでもらったところ、最も多かったのは「心機能障害/心不全」で93.0%、次いで「高血圧症」の71.8%であり、この2つが最も多かった。続いて「不整脈」(36.6%)、「心筋炎」(25.4%)、「虚血性心疾患」(19.7%)、「放射線療法による心血管合併症」(8.5%)、「肺高血圧症」(7.0%)、「末梢動脈性疾患」(2.8%)の順となった。

日常診療で特に注意する抗がん剤では、多い順に「アントラサイクリン」がトップで63件、続いて抗HER2薬50件、免疫チェックポイント阻害薬39件となった。アントラサイクリンの循環器障害には蓄積毒性があるために、累積使用量の把握が必須となっており、そのために注意が必要と考えられていると思われる。

また、心機能障害/心不全、高血圧症ほどではないが、「不整脈」が上位に来ていることも注目される。最新のOnco-Cardiologyガイドライン(編集:日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会/2023年発行)では不整脈が扱われていない。今後、不整脈に関する知見の集積の必要性が示唆された。

診療報酬の評価を求める声が71.8%に

「腫瘍循環器医療の課題」に関する質問(複数回答)では、最多となったのは「診療報酬上の評価が不十分」(71.8%)であった。次いで「晩期障害のフォローアップが不十分」(54.9%)で、さらに「腫瘍医と循環器医の意思疎通が不十分」と「治療決定の根拠となるエビデンスが少ない」(ともに53.5%)が続いた。2023年の調査では、「腫瘍医と循環器医の意思疎通が不十分」と「治療決定の根拠となるエビデンスが少ない」が最多(62.5%)であり、「診療報酬上の評価が不十分」は41.1%であったが、今回は71.8%へと急上昇していた。

診療報酬に反映されるためには、エビデンスの構築→診療ガイドラインへの反映→診療報酬というプロセスが半ば常道となっており、エビデンスの不足は診療報酬の新設などを妨げる結果となっている。ただしアントラサイクリン類、抗HER2薬、免疫チェックポイント阻害薬の場合、事前のリスク評価や有害事象が発生した場合の病診連携の重要性などについてはコンセンサスが得られており、診療報酬上の配慮が必要とみられる。

調査では、診療報酬上の考慮が必要な項目として「腫瘍循環器全般的な評価」「心エコーにGLSを行う際の保険点数の追加」「心毒性をもつ薬剤投与のhigh-risk症例への加算」(「薬剤性心血管障害診断管理料」の新設)、「心囊ドレナージ管理料」「腫瘍医と循環器医の相談時コンサルテーションへの対価」「薬剤師による外来診療報酬の付与」などが挙がった。

晩期障害への関心も依然として高い。2023年の調査では「晩期障害へのフォローが不十分」とする回答は49.1%であったが、今回の調査でも54.9%となった。

一方、特筆すべきは、「循環器の基礎疾患をもつ患者に十分ながん治療ができない」が2023年の41.1%から2025年は29.6%へと減少傾向が認められたことだ。循環器疾患をもっていても、経験を積んだ結果、有効ながん治療を施すことが徐々に可能になっていることが伺える。

地域連携の不在が77.5%

晩期毒性のフォローアップや免疫チェックポイント阻害薬の致死的合併症である心筋炎への治療など、学際領域にある腫瘍循環器への対応においては、がん治療機関とほかの医療機関との連携の重要性が高い。しかし、循環器医療に関する地域連携の有無を尋ねたところ、地域医療連携をしているとの回答は22.5%と低く、「連携していない」医療機関は77.5%にのぼることが明らかになった。地域連携をしているとの回答者(16名)にその具体例を聞くと、「近隣の乳腺外科の単科病院と連携して心機能チェックをしている」「地域医師と相談し晩期心毒性のフォローアップ」「研究会開催」「重症患者の受け入れ依頼、往診医への依頼」「循環器専門病院との連携」「緊急治療が必要な患者の受け入れ」などが挙がった。

製薬会社には情報提供強化を要望する声

製薬会社への要望の有無については、約半数にあたる46.5%が「ある」と回答した。その具体的な内容を尋ねたところ、「科を跨いだ研究会・講演会等でのレクチャー」「患者教育パンフレット」「心毒性のある薬剤の注意啓発」「低分子ヘパリンなどの申請」「非腫瘍科医にも理解しやすい資料やウエブアプリの提供(基本レジメンや副作用など)」などが挙がった。がん薬物療法に伴う循環器への合併症は副作用に相当するために、製薬会社はそれに関する情報提供に消極的であるとの指摘もある。

しかし、腫瘍循環器への注目度の向上は、がん薬物療法の有効性の向上と裏腹の関係にあり、がん薬物療法の新しいフェーズとみなすべきとの声もある。がん薬物療法の継続や受療患者の増加には、循環器障害のマネジメントは不可避であり、製薬会社からも情報提供や心血管毒性がない新規薬剤やレジメンの開発など積極的な取り組みが求められる。

まとめ

以上の結果を要約すると次のようになる。

  1. 腫瘍循環器外来が開設されているのは回答者全体の39.4%であった。
  2. 治療に伴う心血管合併症で多いのは心機能障害/心不全、高血圧症、不整脈の順であった。
  3. 日常診療で注意を要するがん薬物療法は、①アントラサイクリン、②抗HER2療法、③免疫チェックポイント阻害薬の順であった。
  4. 腫瘍循環器の課題では、「診療報酬上の評価が不十分」が最も多く、次いで「晩期障害のフォローアップが不十分」「腫瘍医と循環器医の意思疎通が不十分」「治療決定の根拠となるエビデンスが不十分」であった。
  5. 地域連携については「ある」が22.5%にとどまった。
  6. 製薬会社に要望することとして、医療者、患者に対する情報提供や啓発活動の強化を求める声が挙がった。