「大阪宣言2025」を発表 がん患者・サバイバーの生命予後の延伸とQOL改善を目指す 「大阪宣言2025」を発表 がん患者・サバイバーの生命予後の延伸とQOL改善を目指す

第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(会長:向井幹夫・大阪がん循環器予防センター副所長、実行委員長:赤澤宏・東京大学大学院医学系研究科循環器内科学)が、「不易流行(がんと循環器:古くて新しい関係)」をテーマに10月25日、26日の2日間にわたって、大阪府の千里ライフサイエンスセンターを会場に開催された。速報として、主なトピックスを紹介する。

大阪宣言2025でがん診療科と循環器科の横断的な協力を訴える

南博信氏
写真1 口演する理事長の南博信氏

日本腫瘍循環器学会理事長の南博信氏(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 腫瘍・血液内科学分野 教授、写真1)は、理事長講演のなかで、「腫瘍循環器への関心は高まってきていることは確かだが、まだまだがん治療医と循環器医の連携は十分とは言えず、がんセンターで急性心筋梗塞を発症すれば、そこで治療することができないという状況は続いている。今後がん専門医が循環器科に行き、循環器科の医師ががん診療科で医療を意図的に行うような人材育成が必要」と訴えた。

続けて『大阪宣言2025 がんとあなたの心臓 ~ Cure Cancer, Save Your Heart』を発表した(写真2)。宣言では、「がん治療に関連する心血管合併症が、がん患者やがんサバイバーの生命予後やQOLを左右する大きな要因となり、循環器医の専門的な対応を必要とするケースが増えています」と状況を説明し、「がん医療における循環器疾患を専門に扱う新しい臨床研究分野として、腫瘍循環器学が誕生しました」と腫瘍循環器学の生い立ちを解説した。

大阪宣言2025
写真2 腫瘍循環器学の重要性をアピールした大阪宣言2025

加えて、「がんサバイバーに対する心血管モニタリングと予防的介入も行います」と決意表明。腫瘍循環器外来が2011年に初めて大阪府立成人病センター(現・大阪国際がんセンター)に誕生したことに触れ、「腫瘍循環器診療発祥の地「大阪」にて、日本腫瘍循環器学会は、あなたの心臓や血管を守り、がん患者・サバイバーの生命予後の延伸とQOL改善を目指すことを宣言します」と締め括った。

腫瘍循環器の国際会議が2027年に東京で開催

腫瘍循環器学の進展は国際協調のなかで追究されるべきものでもある。腫瘍循環器学は米国で誕生し、2022年に欧州心臓病学会(ESC)が初の包括的なガイドラインを発表するなど、欧米が先行している。しかし後塵を拝してきた日本が劣勢を挽回する機会が2027年にやってくる。2027年10月に国際腫瘍循環器学会が主催するGlobal Cardio-Oncology Summit(GCOS)の東京での開催が決定した。

招致に尽力した順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学の佐瀬一洋教授(第9回日本腫瘍循環器学会学術集会会長、写真3)は「GCOSの東京開催までの2年間をただ待つのではなく、日本が率先してエビデンスを創出していく姿勢をもつことが大切であり、この2年間を絶好の機会と捉えなければならない」と強調した。「日本は高齢化が進展すると同時に多くのがん患者、サバイバーを抱える国であり、腫瘍循環器学の領域で国際的なイニシアチブを取り得る立場にある」と語った。

写真3 第8回学術集会会長の向井幹夫氏(右)と第9回学術集会(2026年)会長の佐瀬一洋氏(左)

“アミ・ラゼ”併用療法に関するステートメントを準備

今回の学術集会で最も多くの関心を集めたのが非小細胞肺がんの治療薬アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用療法(“アミ・ラゼ”)がもたらす血栓への対策だった。日本腫瘍循環器学会と日本臨床腫瘍学会が中心となり、日本循環器学会、日本癌治療学会、日本肺癌学会、日本血栓止血学会、日本静脈学会に呼び掛け、7学会合同ステートメントを準備していることが明らかになった。

アミバンタマブはEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体、ラゼルチニブは第3世代のEGFR阻害薬。両剤の併用レジメンは、非小細胞肺がんの標準治療薬であったEGFR阻害薬オシメルチニブとの比較第III相試験(MARIPOSA試験)で、主要評価項目の無増悪生存期間中央値がオシメルチニブの16.6カ月に対し、23.7カ月と統計学的に有意に上回った[HR=0.70(95% CI: 0.58-0.85)、p<0.001]。フォローアップ期間中央値37.8カ月時点の全生存期間中央値の比較でもオシメルチニブ36.7カ月(95% CI: 33.4-41.0)に対してアミ・ラゼ群がNE(95% CI: 42.9-NE)と上回った[HR=0.75(95% CI: 0.61-0.92)、p=0.005]。その一方で併用群は、肺塞栓症19%、深部静脈血栓症16%という極めて高頻度の有害事象を示した。

アミバンタマブを使用する場合には「同薬剤開始後4カ月間は直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与することが推奨」されており、予防投与中に血栓症をきたした場合にはアピキサバンを治療用量に増量することが推奨されている。しかし、このとき活動性がん患者においてアピキサバンを投与すると日本人での血中濃度が高くなることも報告されており、ステートメントではこうした情報を関連学会間で共有し、治療医に注意喚起を促す狙いがあるとみられる。

写真4 活発な議論が展開した学術集会