薬剤性心毒性治療薬のスクリーニング系が登場 京大CiRAがiPS細胞由来成熟心筋組織を活用薬剤性心毒性治療薬のスクリーニング系が登場 京大CiRAがiPS細胞由来成熟心筋組織を活用

舟越俊介氏
舟越 俊介 助教

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の特定助教の舟越俊介氏と武田薬品工業のグループがT-CiRA共同研究プログラムにおいて、iPS細胞から誘導した成熟心臓組織を用いて薬剤性心臓障害を再現、さらにそうした障害を減弱させる薬物のスクリーニング系を確立した。この系を使って心筋障害を減弱させる有望化合物を複数個、見出している。同グループは現在、メカニズム解析なども含め、特許出願準備を進めている。

舟越助教らが開発した系は、2本のポールの間をiPS細胞から誘導した心臓組織が架橋した構造になっており、その収縮の大きさや頻度を記録、解析することができるようになっている。この心臓組織はiPS細胞から誘導した成熟心室筋細胞と心外膜細胞、さらにそれらから分化誘導された線維芽細胞や一部血管内皮組織などで構成され、より生理的な心臓に近い組織となっている。
この系の特徴は優れた再現性と定量性にあり、なおかつ機械学習に基づく心筋障害の画像評価と組み合わせることができる。有害な化合物に曝露されると、その影響を自動的に記録、評価するハイスループットスクリーニングアッセイシステムだ。

舟越助教は、この系を用いてドキソルビシンによる心臓収縮障害の時系列変化を定量化、さらにバイオマーカーの探索を進めている。この系を用いることによって心筋細胞のサルコメア(筋収縮の最小ユニット)障害を正確にスコア化でき、ドキソルビシン誘発心筋細胞障害を用量依存的に定量化できることを確認した。この系を使って、ドキソルビシンによる心筋障害を抑制する心筋保護効果をもつ薬剤を米食品医薬品局(FDA)が認可した薬物ライブラリーの中から見出している。
舟越助教らは、こうしたドラッグリポジショニングの手法を用いて心筋保護薬候補の臨床応用を計画している。「アカデミアの活動として見出された成果を実際の臨床に応用したいと考えている。製薬企業とも積極的に連携していきたい」と語る。

このスクリーニング系は汎用性が高いことも特徴の1つ。ドキソルビシンのほか、トラスツズマブなど抗HER2薬剤など心筋障害が臨床的に問題となっているがん治療薬などでも検討している。
このアッセイ系は薬剤性心筋障害評価だけではなく、心不全、心筋症モデルの構築、新規治療薬開発にも有用であり、同助教は、それらの技術を広く社会還元するためにスタートアップ設立も含め検討している。

心臓オルガノイド

がん治療センターニューズレター
白:心筋細胞、緑:線維芽細胞、赤:コラーゲン1(細胞外マトリックス)

Engineered Heart Tissue(EHT)

がん治療センターニューズレター
緑:線維芽細胞(心外膜細胞由来)