腫瘍循環器はがん治療の新しいパラダイム 編集委員に聞いた【腫瘍循環器の広場】への要望「現場の困りごとを吐き出し共有する場になってほしい」

【腫瘍循環器の広場】はこのほど第3回となる編集委員会を開催した。そこで今後の腫瘍循環器の領域が抱える課題、課題解決に向けた当サイトのあり方について、編集委員の先生方に話し合っていただいた。その一部を紹介する。

参加された先生方

  • 編集委員長小室一成先生(国際医療福祉大学 副学長、日本腫瘍循環器学会 前理事長)
  • 編集委員南博信先生(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 腫瘍・血液内科学分野 教授、日本腫瘍循環器学会 理事長)
  • 編集委員佐瀬一洋先生(順天堂大学大学院医学研究科 環境と人間 臨床薬理学 担当教授)
  • 編集委員窓岩清治先生(東京都済生会中央病院 臨床検査医学科 部長)
  • 編集委員照井康仁先生(埼玉医科大学病院 血液内科 教授)
  • 編集委員赤澤宏先生(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 講師)
  • 編集委員田村研治先生(島根大学医学部附属病院 腫瘍内科/先端がん治療センター 教授)
  • 編集委員田村雄一先生(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学教室 教授)
  • 編集委員岡亨先生(埼玉県立がんセンター 副病院長)
  • 小室
    小室一成先生
    腫瘍循環器の広場では昨年、日本腫瘍循環器学会と協力して日本腫瘍循環器学会の会員を対象に「腫瘍循環器外来・実態調査」を実施しました。その結果、がんの専門医と循環器の専門医の連携が依然として不十分であること、臨床上の意思決定をする場合に根拠となるエビデンスが不足していることに苦労している実態が明らかになりました。臨床研究の充実は日本腫瘍循環器学会発足以来の課題でもあるわけですが、今後どのようにしたらよいのか。皆さんと一緒に考えたいと思います。
    腫瘍循環器の広場について、このようなことをしたら良いのではという要望があれば、言ってください。田村雄一先生はいかがですか。

症例カンファレンスの実際を紹介しては

  • 田村(雄)
    田村雄一先生
    この領域はエビデンスが不足していることが大きな課題ですが、がん治療では使う薬剤の種類も多くレジメンも複雑化しています。しかも、一つひとつの薬剤やレジメンに前向きな検証試験を実施することは難しく、リアルワールドデータ(RWD)の集積が重要になります。学会が中心になって解決していく必要があります。腫瘍循環器の広場には“現場の困りごと”を抽出していく場になってほしいと思います。
  • 小室前向き試験が少ないことは事実ですが、一つひとつの薬剤や問題を検証するために前向き試験を組むということは難しいという実態があります。腫瘍循環器の広場では現場の先生方を対象にアンケート調査を実施したわけですが、こうした機会を通じて現場が抱える問題を明らかにする機能を期待したいと思っています。
  • 岡亨先生
    日本腫瘍循環器学会の教育研修部会では、患者啓発の一環として院内掲示できるポスターを作成中です。患者の間にはまだ腫瘍循環器の問題はなじみが薄いので、こうした患者教育についても腫瘍循環器の広場から情報発信していただくと良いと思います。
  • 田村(研)
    田村研治先生
    「実態調査」ではがんと循環器とのコミュニケーションの不足を指摘する声が多く挙がっていました。実は私の大学も双方の医師やスタッフが顔を合わせてカンファレンスを行うということができていません。免疫チェックポイント阻害薬の心筋炎などの症例カンファレンスなどを実施したいと考えています。もしそのようにがん治療医と循環器疾患の治療医がカンファレンスを行っている施設があれば1つの症例についてどのような議論が交わされているのか、腫瘍循環器の広場で紹介してもらうと日常診療に役立てることができます。ぜひ検討してもらいたいと思います。
  • 小室顔が見えるカンファレンスを開催することはこの問題の理解を双方が深めていくうえで非常に大切なことです。また個々のケースのデータについても整理して、一覧化できると現場には参考になりますね。

腫瘍循環器をめぐる構造自体を改変する契機に

  • 赤沢
    赤澤宏先生
    私のところにも「がんと循環器が連携していくためにはどうしたらいいのか」という相談が持ち込まれることがあります。連携していくことが重要ということは、皆さん理解はしている。今後は連携による成功体験を共有していくことが非常に大事だと思います。
    学会も腫瘍循環器の広場にも共通して要望されるのは、現場で困っていることを出し合って集約する場になってほしいということです。
  • 窓岩
    窓岩清治先生
    私はがん治療医でも循環器医でもなく、臨床検査医という立場ですが、両者が連携してうまくいった症例の紹介は貴重であり、現場の参考になると思います。また、現場では必要な薬が不足しているという実態があります。静脈血栓塞栓症(VTE)などの治療薬には海外と比較したドラッグラグも目立ってきました。腫瘍循環器にかかわる疾患の治療に必要な薬剤の開発パイプラインなども紹介してもらうとよいのではないでしょうか。
  • 南博信先生
    製薬会社にも我々の側から発信していく必要があります。極論ですが、生存期間の改善には差がない非劣性の証明しかできない薬剤であっても、循環器への影響が少ないがん治療薬であれば、現場の望むものであるということをより積極的にアピールする必要があるのではないかと思います。
  • 小室AI創薬などの手法も台頭しています。これまでの創薬では困難だった特性をもった薬剤の開発も現実味を帯びています。医師が現場のニーズを製薬会社に伝えていくことは大事ですね。
  • 佐瀬
    佐瀬一洋先生
    現場からボトムアップで要望をあげていくことは大事です。一方でこの問題解決をより有利に展開するのであればトップダウンについても考えていかなければなりません。PMDAやAMEDなどの理解も重要です。患者アドボカシーグループと連携して、あるいは、厚生労働省の担当者や国会議員にも働きかけ、診療報酬などの政策に反映することが大事です。裾野を拡げ、広く理解と協力を求めつつ、トップの意識を高めていく2つの方向を検討していかねばならないと思います。
  • 照井
    照井康仁先生
    循環器に限らず、がん治療に伴う併発疾患への関心が高まっています。私の専門は造血器腫瘍ですが、骨髄腫を例にとっても腎臓、骨への併発症、血栓症などの問題も起きます。関連分野との連携を強化することによって前に進んでいけると理解しています。
  • 小室最近は腫瘍循環器だけではなく、脳卒中のストロークオンコロジーの研究会も発足しました。腎臓への併発症を研究するオンコネフロロジーやがん治療による認知機能の低下をカバーするケモブレインという領域も注目されるようになってきました。腫瘍循環器はこうしたがんと併発症に関する医療のあり方を追究するモデルになると思います。
  • 腫瘍循環器について、がんの専門医の関心はまだまだ循環器の先生方に比べると低いかなというところが率直な印象です。しかし腫瘍循環器の広場にはがんの先生方が循環器の先生方を上回る頻度で来ているとのことです。現場では困っていますし、エビデンスがないことは確かですが、PubMedなどには多数の重要な論文が出ています。こうした論文の抄訳なども腫瘍循環器の広場で掲載してもらえれば良いという感想も持ちました。そして、サイトを訪れる先生方が増え、そこから日本腫瘍循環器学会に参加してくれる先生方が増えてくれると理事長としてもありがたい限りです。今日は先生方、お忙しいところありがとうございました。

【腫瘍循環器の広場】 編集部・運営事務局コメント

本日はすべての編集委員の先生にご参加いただきました。御礼申し上げます。
我々のサイトはおかげさまで開設から3年目を迎え、順調に来訪者の数を増やしてきました。これまでは、腫瘍循環器という学際領域の重要性を啓発することに重きを置いてまいりましたが、今後は現場で実際に困っていることなどを集約し、その解決に向けて役に立つプラットフォームになってほしいとのご要望を本日、多数の編集委員の先生方からいただきました。がん治療が成果を上げ、生存期間が改善してきたことに伴って、循環器をはじめとする併発疾患も注目されるようになってまいりました。がん専門医だけでも併発疾患の専門医だけでも解決できない困りごとが増えていることを、本日の先生方のお話を通じて実感いたしました。【腫瘍循環器の広場】は、よりプラクティカルな問題を訴求し、具体的な解決策を探索するためのフェーズ2のサイトに向けて進んでいきたいという思いを強くしました。ご参加いただきました先生方に改めて感謝申し上げるとともに、貴重なご意見を具現化するために邁進してまいる所存です。