62.5%が腫瘍医と循環器医の意思疎通不足を指摘 「腫瘍循環器の広場」が全国実態調査を実施62.5%が腫瘍医と循環器医の意思疎通不足を指摘 「腫瘍循環器の広場」が全国実態調査を実施

本サイト「腫瘍循環器の広場」では、日本腫瘍循環器学会の全面協力を得て、腫瘍循環器の医療体制をめぐる実態調査を実施した。全国823人の会員のうち、112人から回答を得た(回答率13.6%)。その結果、「腫瘍医と循環器医との意思疎通が十分でない」とする回答が62.5%に達するなど実態が明らかになった。

今回の調査では、回答した112人のうち40.2%が勤務先の病院に「腫瘍循環器外来が既に存在する」と回答、さらに「開設予定はある」の3.6%を含めると、43.8%に専門外来が存在することが明らかになった。近年、腫瘍循環器への関心が循環器専門医を中心に高まっており、全国に専門外来の開設が広まっていることがうかがえた。

腫瘍循環器の問題となる症状、疾患について、頻度が高い順番に3つ選んでもらったところ、「心機能障害/心不全」が最も多く、96.4%とほぼ全例にのぼった(図1、Q8)。次に多いものが「高血圧症」(69.6%)、「不整脈」(42.9%)であった。「放射線療法による心血管合併症」も11.6%であった。

図1

問題となる薬剤名は具体的な回答が少なく、一般化は困難であるが、アドリアマイシン系薬剤、トラスツズマブなどの抗HER2抗体薬、免疫チェックポイント阻害薬、血管新生阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬などの薬剤名が挙がった。

エビデンス不足への懸念

「腫瘍循環器医療の課題」を挙げてもらったところ(回答選択制)、最も多かった回答が「腫瘍医と循環器医の意思疎通が不十分」「治療決定の根拠になるエビデンスが少ない」というものでいずれも62.5%となった(図2、Q10)。腫瘍医と循環器医の意思疎通は、腫瘍循環器最大の課題であり、両者の共通理解の促進のために日本腫瘍循環器学会が発足した(本サイト「腫瘍循環器の広場」も両専門領域の共通理解の促進を最優先のミッションとしている)が、現場では依然として、この問題が深刻なものであることがうかがえた。

図2

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並んで治療決定のエビデンスが不足し、現場で試行錯誤が続いている実態も改めて明らかになった。日本腫瘍循環器学会は2023年に日本臨床腫瘍学会と共同で「Onco-cardiologyガイドライン」を刊行したが、このガイドラインを編纂した矢野真吾教授(東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科)自身が指摘するように、腫瘍循環器学自体が若い学問領域であり、明快な回答が得られていない臨床課題が山積している。

エビデンス創出のための臨床研究の不足が大きな問題であるが、一つひとつの臨床命題を解決するために新たな臨床試験を実施することは現実的ではない。早急に回答が必要な臨床課題の順位付けや、デジタル化など新規技術を積極活用した新しい臨床研究の方法論も追求される必要がありそうだ。

「診療報酬上の評価が不十分」とする回答も50.9%にのぼり、3番目に多かった。がんやがん治療に伴う循環器障害は発症してからの対処療法よりも、事前にリスクを評価し、適切な予防策を講じることの重要性が指摘されている。そのためには、診断が確定した段階からがん患者を検査し、循環器症状の発症リスクを評価することが求められる。必要な医療行為や検査に対する診療報酬のサポートが必要であるが、そのためには臨床研究やガイドラインへの記載などが連動することが重要であり、学会間の連携などによる戦略的な対応が望まれる。

5番目に回答が多かった「循環器に基礎疾患をもつ患者に十分ながん薬物治療ができない」(41.1%)もそうした現状を裏付けるものと理解できそうだ。

晩期障害へのフォロー

「晩期障害へのフォローが不十分」という回答も49.1%に達した。晩期障害は腫瘍循環器にとって大きなテーマであり、同時に治癒後のフォローアップという日本のがん診療自体にとって大きな課題である。比較的治療成績が良好な乳がんも治癒後10年を過ぎると、生存期間を毀損する要因ががんから心疾患に代わるという報告もある。晩期障害への対応を可能にするがんサバイバーに対する長期的なフォローアップは今後の課題であるが、現場では問題意識が高まっていることがうかがえた。

循環器疾患ではリハビリテーションの重要性が注目されている。腫瘍循環器においても再発予防や社会復帰のためにも欠かせないポイントであるが、その「提供体制が不十分」とする回答が23.2%あった。

メディカルスタッフの教育も課題とみられる。十分な知識の不足を懸念する声が検査スタッフについて30.4%、看護師について34.8%にあった(薬剤師については、21.4%にとどまった)。従来、がん医療の現場では症状が出現したときの対応が重視され、循環器では血液マーカーなどをもとに発症の予防に比重を置いた医療が行われてきたといわれる。こうした行動原理の違いを解消することが求められている。

予防原則を実現するための診療体制の重要性

腫瘍循環器ではがん患者が潜在的にもつ循環器障害のリスクを明らかにし、それをベースに治療法を選択し、しかも継続的に長期にフォローアップすることが求められている。がん治療の成績上昇に伴い、循環器障害という新しい課題が浮上し、それに対する認識や警戒が医療現場で急速に広がってきたことがここ数年の傾向と総括することができる。専門外来が設置されたという回答は2分の1であったが、調査対象が日本腫瘍循環器学会の会員を対象としている以上、診療体制整備がまだ途中にあることが分かる。

さらに日本腫瘍循環器学会学術集会などで繰り返し指摘されてきた腫瘍医と循環器医の医師疎通が不十分とする認識が62.5%と高かったことは、この問題が解決に遠い状況にあることが再認識された。

設問リスト一覧

  • Q1貴院、お勤め先には腫瘍循環器外来が既に開設されていますか
  • Q2開設年月日、および、外来に出る医師の人数を教えてください
  • Q3開設予定年月日を教えてください
  • Q4腫瘍循環器外来の窓口になる方のご所属・氏名・メールアドレスを教えてください
  • Q5腫瘍循環器外来の開設頻度を教えてください
  • Q6腫瘍循環器外来担当医が診療する患者さんの数は外来患者さん/入院患者さんにおいて1週間にどのくらいですか
  • Q7腫瘍循環器に関する進展中の臨床研究がある場合、開示できる試験概要を下記にご記入ください
  • Q8“治療に伴う心血管合併症”を患者が多い順に3つ選んでください
  • Q9貴院において、日常診療で特に注意を要する抗がん剤名をその重要度順に挙げてください
  • Q10「腫瘍循環器医療の課題」と思われる項目を下記より選択してください
  • Q11腫瘍循環器診療に必要な情報はどの経路から入手されていますか
  • Q12日本腫瘍循環器学会を知っていますか
  • Q13日本腫瘍循環器学会の学術集会に参加したことがありますか
  • Q14貴施設の常勤者で日本腫瘍循環器学会の会員はいますか
  • Q15会員の職種にチェックをお願いします
  • Q16WEBサイト「腫瘍循環器の広場」を知っていますか
  • Q17腫瘍循環器外来を始められて特に感じていることがありましたら教えてください
  • Q18腫瘍循環器医療に関する地域連携をされていますか
  • Q19具体的な内容を教えてください
  • Q20腫瘍専門医と循環器専門医以外の院内連携・他科連携をされていますか
  • Q21具体的な内容を教えてください
  • Q22がん患者に対する循環器疾患の啓発・教育をされていますか
  • Q23具体的な内容を教えてください