順天堂大、トノメトリーによりTKI使用患者の血管内皮機能を評価順天堂大、トノメトリーによりTKI使用患者の血管内皮機能を評価

宮﨑彩記子 特任准教授
  • 順天堂大学循環器内科学の宮﨑彩記子・特任准教授。同院の腫瘍循環器外来を担当している。造血器腫瘍のほかに乳がん患者も数多く診察している

順天堂大学循環器内科学の宮﨑彩記子・特任准教授(写真)、南野徹教授らのグループは、reactive hyperemia peripheral arterial tonometry(RH-PAT)を使ってチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)を使用している慢性骨髄性白血病(CML)患者の血管内皮機能の評価を試み、その結果をCardio-Oncologyに報告した1)。その結果、3分の1の患者で血管内皮機能の指標であるRHI(reactive hyperemia index)低値が認められた。宮﨑特任准教授は「今後、症例を増やして、RHIがTKI使用に伴う動脈閉塞イベント発症予測マーカーとなり得るかどうかを検討する」と語っている。

イマチニブなどTKIの登場はCMLの予後を劇的に改善したことはよく知られている。第1世代であるイマチニブに続き、イマチニブに抵抗性が生じた患者に対する第2世代TKIのダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブや第3世代のポナチニブによってCMLは長期生存が可能な疾患となった。一方で、これら薬剤では長期にわたって継続的に使用する必要があり、TKIがもつ副作用のマネジメントがCML治療にとって大きな課題になっている。とりわけ、虚血性心疾患、脳卒中、動脈閉塞などの心血管系の副作用が注目されている。特に治療5年間の動脈閉塞の累積発症率はポナチニブで31%、ニロチニブで7%という報告もある。

順天堂大学では、血液内科と循環器内科が連携して、TKI投与を処方するCML患者を対象に心血管リスクファクターの評価を行い、TKI投与中は定期的に合併症のモニタリングを行っている。宮﨑特任准教授らは、TKIによる血管内皮機能障害と心血管合併症の関係に着目し、RH-PATを用いた研究を進めている。

RH-PATは血管内皮機能を非侵襲的にしかも指の先端部で測定できる手法。上腕を駆血した後に開放し、動脈拡張反応を指尖脈波で測定するというのが基本原理。循環器疾患の大規模なコホート研究であるフラミンガムスタディーではこの方法で測定された血管内皮機能と心血管病のリスクファクターとの相関があり、心血管イベント発症の予測に有効と報告されている。

本研究では2020年1月から2021年7月までに同院でTKIの治療を受けた30人のCML患者を研究対象(年齢中央値43.5±9.8歳、男性57%)とした。16.7%の患者がイマチニブを、83.3%が第2世代、第3世代のTKIを服用していた。被験者はベッド上で横になり、利き腕でない腕を駆血側、利き腕を非駆血側とし、脈波測定用のプローブを両手の第2指に装着した。一定時間の安静後に5分間のベースラインを測定、その後5分間の駆血と駆血開放後の5分間の脈波を測定した。対象患者のRHIの中央値は1.81で、10人の患者はRHI<1.67と低値を示した。RH-PAT検査で得られるRHIは、血管が受けたダメージの程度を反映していると考えられる。

RH-PAT検査に用いる機器Endo-PAT2000は保険償還の対象になっているが、主に臨床研究に用いられており、日常臨床で普及段階にはない。しかし、今後RHIとその後の循環器障害の発症リスクとの相関が明らかになれば、TKIによる治療をより安全に行うための事前検査として有用性が認められる可能性がある。

「今回の報告は、パイロットスタディーであり、日常診療のなかでRH-PAT検査を患者に特段の負担をかけずに実施することができるのかを検証し、CML患者におけるRHIの値を評価することにあった。。検査は30分程度で行うことができ、CML患者に午前中早めに受診してもらうことができれば、問題なく実施できることが確認できた」と宮﨑准教授は語った。

文献

  • 1) Kaneko T, et al.: Cardio-Oncology. 9(1): 11, 2023 [PubMed]