がん患者でも高頻度に合併する高血圧が非がん患者同様、心不全などの心血管イベントのリスクになることが日本の大規模疫学データベースを解析することで確認された。研究グループは「たとえがん治療中の患者であっても血圧の管理が重要であることを示すものであり、腫瘍循環器学においてもとても重要な知見」と述べている。がん患者において、血圧上昇が心不全などの心血管イベント発症リスクと関連することを報告した世界初の大規模疫学研究だ。論文は日本時間9月9日に米国医学雑誌Journal of Clinical Oncologyに掲載された(Kaneko H, et al.: J Clin Oncol. Sep 8, 2022 [Online ahead of print])。
研究を行ったのは東京大学の小室一成教授、金子英弘特任講師、佐賀大学の野出孝一主任教授、香川大学の西山成教授、滋賀医科大学の矢野裕一郎教授らの研究グループ。がん患者において高血圧が合併することは珍しいことではなく、さらに近年のがん薬物療法の中心となっている分子標的治療薬の多くに副作用として高血圧がある。一方で、がん患者では食欲不振に伴う脱水などで低血圧が問題となるケースも多く、高血圧への積極的介入を控えることもあった。
研究グループは、2005年1月から2020年4月までにJMDC Claims Databaseに登録された乳がん、大腸がん、胃がんの既往を有する33,991症例(年齢中央値53歳、34.1%が男性)を解析した。平均観察期間2.6±2.2年間の間に779症例で心不全が発症した。米国ガイドラインに準じて正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)と比較して、心不全リスクはステージ1高血圧(収縮期血圧130~139mmHgかつ拡張期血圧80~89mmHg)でハザード比1.24、ステージ2高血圧(収縮期血圧140mmHg以上かつ拡張期血圧90mmHg以上)では1.99と用量依存的に上昇した。
また血圧上昇に伴う疾病発症リスクの上昇は心不全以外の心血管イベント(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても認められた。また薬物療法など積極的ながん治療を行っている症例でも高血圧と心不全リスクの上昇に相関関係があった。
以上の結果は、韓国の全国規模の疫学データベースでも追認されたという。
今回の結果は因果関係を示したものではないが、研究グループは日本の高血圧診断基準(140/90mmHg)よりも低い値から、心不全が上昇したことを重視している。同グループは「今後の研究によってがん患者における適切な高血圧治療指針を構築していく必要がある」と指摘している。