がん治療中の心不全ががんの死亡率に影響する可能性 久留米大グループがデータを収集中
がん治療中の心不全ががんの死亡率に影響する可能性 久留米大グループがデータを収集中

柴田 龍宏 助教授
柴田 龍宏 助教

がん治療の成否を決める最も重要な指標の1つである全死亡率にがん治療中の心不全の発症が影響を及ぼしている可能性がある。久留米大学医学部心臓・血管内科の柴田龍宏助教と福本義弘教授らが進める、がん患者の予後と心血管イベントの発症の関係を調べるKurume-CREO研究で、その検証が進んでいる。

治療中、あるいは治療後の心血管イベントの発生ががん患者の予後に影響を与える可能性が指摘されている。しかし、実際の臨床データをもとに検証した研究は非常に少なく、アジア人の前向き縦断研究となると皆無という状態だ。

柴田助教らは、造血器悪性腫瘍と乳がんの担当医らの協力を得て、抗がん剤使用患者に対する前向き観察研究を2016年に開始した。研究の方法は、無症候であっても登録後半年ごとに血液検査や胸部レントゲン、心電図検査等を施行し、アウトカムは有害事象共通用語基準(CTCAE)v4.0日本語訳JCOG版のGrade 2以上の心血管有害事象とした。現在、結果は詳細に解析した後、近く論文として発表する予定だ。

腫瘍循環器外来の立ち上げで院内認知度が向上

「Kurume-CREO研究を開始した2016年当時、院内のがん専門医の治療に伴う心血管イベントに対する関心は高いとはいえなかった。そのため、まずはこの領域へのニーズが高い血液腫瘍内科と乳腺外科と臨床・研究実績を積み重ねることにした」と柴田助教は振り返る。
しかし、2019年の腫瘍循環器外来の発足とともに院内の認知度も向上、いまではがんを扱うすべての診療科からコンサルト依頼が来るまでになった。コンサルト依頼が最も多いのは血液腫瘍内科で全体の3分の1に相当するという。その次には婦人科、呼吸器科、乳腺外科が続くという。

「分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、これまであまり抗がん剤による心血管イベントに困っていなかったがん診療科でも、心血管イベントが増えてきている傾向があり、それらを多く使用する領域でコンサルト依頼も増えている。腫瘍循環器の研究は欧米が先行しており、日本人患者のデータは少ない。欧米の傾向が日本人にも当てはまるかどうかを検討する必要がある。研究を始めてみて、従来はアントラサイクリン系の抗がん剤で治療する非ホジキンリンパ腫などの悪性リンパ腫の治療が問題視されてきたが、多発性骨髄腫でも心血管イベントが多いという印象を得た」と日本人患者でデータを収集する重要性を指摘する。

さらに同氏は「がんの治療に用いられる薬剤は多い。Kurume-CREO研究の過程で登録された薬剤の種類は造血器悪性腫瘍と乳がんに限っても90以上にのぼり、すべての薬剤に気をつけることには無理がある。しかし少なくともアントラサイクリン、トラスツズマブ、カルフィルゾミブなど特に頻度が比較的高い薬剤を使用する場合には注意する必要がある」と語る。

がんの治療の成否は死亡率や全生存期間で評価されることが多い。心血管イベントの予防や適切な治療でそれらの指標が改善される可能性があるといえそうだ。