歩くこと、動くことにより、がん既往歴のある女性の心血管死亡リスクが低下する可能性
英語オリジナル版はこちら研究の重要ポイント:
- ・がん既往歴のある閉経後女性では、毎日の歩数を増やすなどの身体活動の増加は、心血管疾患による死亡リスクの低下と関連していた。
- ・本研究では、1日1時間の中等度から激しい身体活動により、参加者のあらゆる原因による死亡リスクが40%減少し、心血管疾患による死亡リスクが60%減少することがわかった。
- ・参加者が1日あたり2,500歩追加するごとに、心血管疾患による死亡リスクが34%減少した。
- ・注記:本ニュースリリースで紹介されている研究は概要である。American Heart Association(AHA)の学術集会で発表された概要は査読を受けておらず、査読を受けた科学雑誌に完全な原稿として掲載されるまでは、研究結果は暫定的なものとみなされる。
がんの既往歴のある閉経後女性において、毎日歩数を増やすことと中等度から激しい身体活動を行うことは、いずれも心血管疾患による死亡リスクを有意に減少させることと関連していることが、AHAのEpidemiology and Prevention | Lifestyle and Cardiometabolic Health Scientific Sessions 2025で発表された予備的研究により明らかになった。
本会議は2025年3月6~9日までニューオーリンズで開催され、人口に基づく健康とウェルネス、およびライフスタイルへの影響に関する最新科学を取り上げた。
身体活動は、AHAのLife's Essential 8(最適な心血管の健康を支える健康行動と要因のリスト)の重要な構成要素である。
同協会は現在、成人に対し、少なくとも週150分の中等度の身体活動(ウォーキングやガーデニングなど)、または週75分の激しい身体活動(ランニングや水泳など)、あるいはその両方を組み合わせることを推奨している。
同協会の2019 scientific statement によると、がんサバイバーの心血管疾患による死亡リスクが高まっている。
声明はまた、がん治療後の心臓リハビリテーションと回復には運動トレーニングが不可欠であり、運動療法はがん治療中の心血管系毒性の軽減に役立つ可能性があると述べている。
「がんサバイバーがより活動的になり、座位時間を減らし、毎日の歩数を増やすよう奨励することは、生存期間を延ばし、心血管疾患による死亡リスクを減らす実現可能なアプローチとなる可能性がある」と、University of California, San Diegoの研究アナリストで、本研究の主研究著者であるEric Hyde氏(PhD、MPH)は述べた。
「本研究は、がんの生存に関連した閉経後女性の潜在的な身体活動行動をより良く理解するのに役立つ。」
研究者らは、身体活動と座位行動とがんの発症および死亡との関係を調査する2つの観察研究を組み合わせた研究である、Women’s Health Accelerometry Collaborationの身体活動データを調査した。
研究者らは、身体活動および座位行動と心血管疾患による死亡または全死亡割合(あらゆる原因による死亡)との潜在的な関連性を評価した。
本研究では、63~99歳までの閉経後女性約2,500例を約8年間追跡調査した。
解析の対象には、研究に参加する少なくとも1年前に乳がんまたはその他のがんと診断された参加者が含まれていた。
参加者は1日最低10時間、最長1週間、腰に加速度計を装着した。
軽度の身体活動、中等度から激しい身体活動、総身体活動、歩数など、毎日の身体活動を記録した。
また、起きている間の総座位時間など、座位行動も記録した。
年齢、人種/民族、さまざまなライフスタイル、心血管疾患のリスク要因、がんの種類、がん診断からの経過年数を調整後、次のことが判明した。
- ・毎日の歩数の増加と中等度から激しい身体活動の増加は、全死亡リスクの低下と関連していた。
- ・1日5,000〜6,000歩の歩数を記録した参加者において最大の効果が認められ、全死亡リスクが40%減少した。
- ・1日あたり2,500歩増えるごとに、心血管疾患による死亡リスクが34%減少するという相関関係もみられた。
- ・中等度から激しい身体活動による最大の効果は、1日1時間以上身体活動を行った参加者にみられ、全死亡リスクが40%、心血管疾患による死亡リスクが60%減少した。しかし、1日1時間をはるかに下回る量でも有意なリスク低減がみられたと指摘している。
- ・1日の座位時間102分ごとに、全死亡リスクが12%、心血管疾患による死亡リスクが30%上昇した。
「参加者が1日あたり5,000歩未満しか歩かない場合でもリスク減少は明らかであった。これは、よく言われる1日あたり1万歩の基準の半分であった」と、Hyde氏は述べた。
「毎日の歩数は、一般の人々にわかりやすく、どんな強度でも測定でき、次第に普及してきているスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスで記録されるため、重要な指標である。」
ニューヨークのColumbia University Medical CentreでFlorence Irving Associate Professor(行動医学)を務め、公認運動生理学者であり、AHAのPhysical Activity Science CommitteeメンバーであるKeith Diaz氏(PhD)は、この研究結果は、がん診断後の健康管理と長寿の促進方法に関する理解を深めると指摘した。
「計画的な運動は健康増進に最も効率的で効果的な方法であることに変わりはないが、今回の研究結果は、どんな強度であっても歩くことが重要であることを強調している。活動的なライフスタイルへの道はわれわれが考えるよりもずっと容易であり、その恩恵はがん治療後の生活を送る人々を含め、すべての人にもたらされる」と、本研究には関与していないDiaz氏は述べた。
「本研究から得られるもう一つの重要な点は、座位時間の影響である。現在、多くの成人は1日の大半を座って過ごし、体を動かしていない。がんサバイバーにとっては、がん治療と回復に伴う身体的負担のため、この問題はさらに顕著であると考えられる。これらの知見は、長時間の座位が重大な健康リスクであり、特にがん診断後は、積極的に対処すべきものであることをさらに裏づける。」
研究の詳細、背景、デザイン:
- ・解析対象は、がん既往歴のある女性2,479例で、平均年齢は74歳であった。研究参加者の52%は乳がんの既往があった。子宮体がん8.5%、悪性黒色腫7.1%、結腸がん6.6%、肺がん3.0%、膀胱がん2.1%、直腸がん2.1%、卵巣がん2.1%、腎臓がん1.7%、頭頸部がん0.9%、骨髄腫0.7%、「その他」と分類されたがん13%。
- ・データは、2011~2015年にかけて実施された2つの研究(Women's Health InitiativeとWomen's Health Study)のコンソーシアムであるWomen's Health Accelerometry Collaborationによるものである。健康転帰を評価する追跡期間は2022年末まで行われた。
- ・加速度計による毎日の身体活動の測定には、軽度の身体活動、中等度から激しい身体活動、総身体活動、歩数が含まれた。
- ・軽度の身体活動の例としては、家事やゆっくりとしたウォーキングなどがあり、中等度から激しい身体活動としては、早歩き、ランニング、自転車、テニス、きつい庭仕事などがある。
本研究には、診断時および治療時のがんの病期に関するデータがないこと、身体活動の測定ががん診断後1回のみであることなど、いくつかの限界があった。
「今後の研究では、がん診断前、治療中、治療後など、いくつかの重要な時点における身体活動を測定し、これらの行動の変化が生存にどのように関係するかを明らかにする必要がある」と、Hyde氏は述べた。