がん治療による致命的な心臓合併症のスクリーニングと診断の新しいバイオマーカー戦略が考案された
英語オリジナル版はこちら研究者らは、一部のがんの治療に用いられるモノクローナル抗体によって引き起こされる、稀だが、致命的な合併症をスクリーニングするための新しいバイオマーカーに基づく戦略を考案した。
JACC: CardioOncology誌に発表された研究では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後に心筋炎と診断されたがん患者のほぼ全員に、筋肉の破壊と肝臓障害の初期症状があることが明らかにされた。
「ICIは、さまざまながんの治療に革命をもたらしたが、心筋炎という稀な合併症を発症した患者は、しばしば後になって発症し、少なくとも50%の確率で死亡する」と、本研究のシニアオーサーで、University of Michigan Health Frankel Cardiovascular Center ClinicsのメディカルディレクターであるSalim Hayek氏は述べている。
「ICIによる心筋炎の診断は、他の心外傷の原因と区別できる検査がないため困難である。患者が来院したときには、手遅れになっていることが多い。患者を早期に診断することで、免疫抑制療法を早期に開始することができ、患者の生存率を高めることができる」 と、Hayek氏は述べている。
ICIは、体の免疫システムとがん細胞に対する反応を強化するモノクローナル抗体である。薬による免疫活性の高まりが、体そのものを傷つけ、ほとんどの臓器系にダメージを与える可能性があり、心筋炎は最も深刻な合併症とされている。
研究者らは、2014年6月~2021年12月にUniversity of Michigan HealthでICIによる治療を受けた2,600例以上のがん患者を分析した。ICI心筋炎と診断された患者の大半は、入院前にも筋損傷や肝臓障害の初期症状がみられた。これらの患者のうち、95%は少なくとも3つのバイオマーカーが上昇していたのに対し、心筋炎でない患者ではわずか5%であった。
心臓以外のバイオマーカーのうち、筋損傷を示すクレアチンホスホキナーゼは、ICI心筋炎の発症や全死因死亡と最も強く関連していた。
共著者であるパリのSorbonne Université医学部教授で、ICI心筋炎分野の第一人者であるJoe-Elie Salem氏(MD, PhD)によると、「ICIに関連する心筋炎が単独で発症しないことは、免疫系が活性化すると、いくつかの臓器、特に筋肉に影響を与えることが予想され、理にかなっている。ICIによって活性化された自己反応性T細胞が標的とする抗原の多くは、心筋と末梢筋の間で共有されている。筋炎、または筋損傷は、このクラスの薬剤に関連する合併症の中心的な構成要素である」。
研究者らは、ICIを使用している患者を定期的にモニターし、筋損傷のクレアチンホスホキナーゼ、肝臓損傷のアスパラギン酸およびアラニンアミノトランスフェラーゼ、組織損傷の乳酸脱水素酵素などの体内の損傷を示すバイオマーカーを調べるべきだと結論づけた。
「これらのバイオマーカーの異常は、臨床医に高感度トロポニンによる心外傷の検査を促すだろう」と、Hayek氏は述べた。「逆に、ICI心筋炎が疑われる患者は、クレアチンホスホキナーゼ値を測定する必要がある。もし、低値であったり、正常範囲内であったりすれば、ICI心筋炎という診断はまずあり得ない」と、Hayek氏は述べている。