第34回日本乳癌学会学術総会が6月25日から27日の3日間にわたり、京都で開催された。初日の日本がんサポーティブケア学会/日本乳癌学会合同シンポジウム『心臓も守る乳がん治療:Onco-Cardiology連携による次世代支持療法』では、腫瘍循環器をめぐる新しい試みが報告された。
『乳癌患者における腫瘍循環器』の演題で講演した虎の門病院臨床腫瘍科の田辺裕子氏は、腫瘍循環器の現状を「現場にはじりじりと浸透しているがなおエビデンスが不足しており、発展途上」と表現した。腫瘍医のあいだでは、アントラサイクリンや抗HER2薬、血管新生阻害剤(VEGF阻害剤など)の心血管への影響についての認識は広まってきたが、その関心の深さには個人差があると語った。
ベストプラクティスは多職種連携
田辺氏は欧州心臓病学会(ESC)が2022年に公表した腫瘍循環器ガイドラインを引用しつつ、日本の医療体制のなかで完全に踏襲することが困難であることから、日本国内の学会を中心に日本の医療環境に合った仕組みを構築していくことが重要だと指摘した。
同氏は「心不全にまで至らないものの左室駆出率(LVEF)の低下をみるがん治療薬は多く、薬剤師とのダブルチェックが必要。特に、がん治療前の心血管リスクの評価が大切であり、LVEF、BNPやNT-proBNPなどのベースラインの評価が欠かせない」と強調した。加えて代謝異常を合併するがん患者も多いことから、本来ならば血糖値管理の制御につながるライフスタイルへの介入が望ましいが、現時点では十分にできていないとして、「患者の自己管理意識を醸成することが重要であり、支援するスタッフの教育も必要になる」として、ベストプラクティスは多職種連携であると強調した。
がん専門病院ながら心不全予防管理料を算定
国立がん研究センター東病院栄養管理室の須永将広氏は、がん専門病院でありながら、新設された「心不全再入院予防継続管理料」を算定していることを明らかにした。『乳癌患者における循環器と栄養-随時尿を用いた推定1日食塩摂取量に着目した検討-』の演題で講演した須永氏も多職種連携の重要性を強調する。
心不全再入院予防継続管理料は、急性心不全で再入院を防ぐため、急性期病院とかかりつけ医が多職種チーム(医師、看護師、管理栄養士、薬剤師など)で連携して計画的な治療や生活指導を継続的に行う仕組み。須永氏は「当院(国立がん研究センター東病院)では、2年前から多職種で構成する腫瘍循環器ラウンドを実施しており、栄養士の立場から患者のライフスタイルにかかわる指導を行っている」と語った。
須永氏は栄養学の立場から特に力を入れている例として、肥満患者に対する栄養指導、味覚障害へのコンサルト、食塩摂取量、を挙げて説明した。体重の管理は日本乳癌学会ガイドラインにもその重要性が指摘されている。食塩摂取量についてはがん患者でも制限が必要だが、外来患者では個人差が大きいという。「入院時はその患者がもつ生活習慣病に合わせた食事の提供が必要になり、退院して外来へ移行した場合は、食塩の制限などその患者のライフスタイルに合わせた介入が重要になる」と語った。
質的な変化を遂げる腫瘍循環器学
『乳癌支持療法の未来:Onco-Cardiology連携の深化』をテーマに講演したがん研究会有明病院先端医療開発科の古川孝広氏は「腫瘍循環器学はがん治療に伴う心血管毒性への対処から、心血管イベント全般の予防へと質的な変化を遂げてきた」と指摘した。
以前の腫瘍循環器はアントラサイクリンや抗HER2薬による心毒性をいち早く発見し、介入してがんに対する治療強度を維持することに主眼が置かれていたが、がん治療に伴う静脈血栓塞栓症(VTE)などにも関心が集まってきた結果、心血管イベントの発生を広く予防する学問へと進化を遂げつつあるという。
「がん治療に使用する薬剤のリスクを層別化し、処方時からイベントが起こったときの対策を提案することが腫瘍循環器の役割となっており、これはがん治療の質的転換を意味する」と指摘した。新しい動きの例として古川氏は、心毒性のある乳がん治療を受ける際の神経ホルモン阻害剤による心保護作用を検証したSAFE試験を挙げた。
SAFE試験はイタリア・フィレンツェ大学のグループが行ったもので、アントラサイクリン系抗がん剤を含む強力な化学療法を受ける女性を対象にビソプロロール、ラミプリル、両者の併用による心保護効果を評価した研究。
24カ月時点における左心室CTRCD(がん治療関連心機能障害)の発生率はプラセボ群で42.9%、心保護療法群で3.1%と有意差が認められた(p<0.001)。さらに右心室CTRCDの発生率も、プラセボ群で49.2%、心保護療法群で22.0%と有意差が認められた(p<0.001)。この結果、乳がんの薬物療法を受ける患者に対する、神経ホルモン阻害剤の予防的介入の有用性が示された。
AMEDの予算でRCTを行ってエビデンスをつくろう
腫瘍循環器は欧米が先行したため、欧米の成果を吟味し、日本の医療に取り入れることが中心となってきたが、その過程で医療制度の違いなどから、さまざまな齟齬が生じることも経験されてきている。本シンポジウムに聴衆として参加した日本がんサポーティブケア学会前理事長で埼玉医科大学国際医療センター病院長の佐伯俊昭氏は「海外の知見を日本の現場に無理に導入するだけではなく、日本独自のプログラムを開発していくべき」と発言した。
「日本の現場の課題を解決するための臨床研究を行うべき。AMEDにはそのための予算があり、そうした予算を使ってRCT(無作為化比較臨床試験)を行って、日本独自のエビデンスを構築してほしい」と若い演者らに発破をかけた。

