2026年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会が5月29日から6月2日の5日間にわたってシカゴおよびオンラインで開催された。実臨床に関係する腫瘍循環器の最新の研究成果が数多く報告された。ここに特に話題になった研究成果、トピックスを紹介する(薬剤名は一般名で統一した)。
アンドロゲン受容体経路阻害薬の心血管毒性データを比較(Abstract 5107)
米国退役軍人ヘルスケアシステムのLinden Huhmann医師らは、アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)治療を受ける転移のある去勢感受性前立腺がん(mCSPC)における主要心血管イベント(MACE)のリスクを検討した。この研究の特徴は、同じARPIであるダロルタミドとアビラテロンのリスクを比較した点、米国退役軍人データベースに登録された11,788人という新規mCSPC患者のデータを対象に解析した点だ。主要評価項目は1年以内のMACEの発生率とした。
1年時点のMACEの発生率はダロルタミドの7.2%に対して、アビラテロンは10.7%。ダロルタミドが統計学的に有意に低かった(HR=0.78[95% CI: 0.62-0.96]、p=0.03)。一方、3剤併用レジメンの場合では、ダロルタミド5.3%、アビラテロン9.6%となったが、統計学的有意差は出なかった。これは検証対象となった症例数の不足が原因と発表者らは考えている。
前立腺がんの生存期間は一般的に長期に及び、治療薬の心血管リスクが顕在化する可能性も高い。今回の研究報告は、前立腺がんの治療薬選択には、がんに対する有効性のみならず、腫瘍循環器の観点からも検討する必要があることを示唆している。特に冠動脈疾患や心不全などの既往をもつ患者においては潜在的に心血管毒性が少ない薬剤の選択が推奨される。
高齢、腎疾患、肝障害などが化学療法関連心筋症の危険因子(Abstract e24025)
Henry Ford St. John HospitalのAbdullah Shaik医師らは、米国のデータベースNational Inpatient Sampleのデータを解析し、化学療法関連心筋症による入院死亡因子の解明を試みた。その結果、高齢、慢性腎疾患、肝障害、転移のある病変、低栄養が独立した死亡予測因子として抽出された。院内死亡率は一般心不全患者よりも高値であった。こうした研究の結果、ハイリスク患者を早期に抽出し、リスク因子を除去もしくは軽減することによって患者予後の改善につながる。日本でもDPCデータを活用したリスクモデルの開発が期待される。
消化器がんでは糖尿病死亡リスクが増加(Abstract e23068)
がんに罹患することは循環器へのリスクだけにとどまらず、糖尿病のリスクも高めている可能性がある。エジプト・カイロ大学医学部のJoseph Shehata医師らは、SEER-17データベースで2000年から2022年に診断された浸潤性がん患者8,103,974人のデータから糖尿病死亡を死亡診断書から抽出、がん種ごとに一般人口と比較した標準化死亡率(SMR)を算出した。
死亡患者数の3,704,416人(45.7%)のうち糖尿病で死亡が確認されたのは46,075人(0.56%)であった。診断後2~11カ月で糖尿病死亡リスクはSMRで1.27(95% CI: 1.24-1.30)、その後はSMR=0.99(95% CI: 0.98-1.00)へと一般人口レベルになることが明らかになり、診断後早期に糖尿病死亡リスクが有意に上昇する傾向が明らかになった。
がん種別のSMRでは、肝がん(2.57)、胆囊がん(2.24)、膵がん(1.89)、胃がん(1.52)、小腸がん(1.34)、大腸がん(1.24)、乳がん(0.83)、悪性黒色腫(0.71)となり、いずれも統計学的有意差があったが、消化器がんにより高い糖尿病死が認められる傾向にあった。
Naxtarubicinは心毒性が少ないアントラサイクリンか?(Abstract 12025)
がん化学療法のキードラッグであるアントラサイクリンは高頻度で心筋症を引き起こす、腫瘍循環器の世界では最も注意を要する薬剤である。とくにやっかいなのは累積毒性で、ドキソルビシンの生涯累積投与量の上限は約450~550mg/m2とされ、治療の制約要因になっており、最近はアントラサイクリンを使用しないレジメンの開発も進められている。
Naxtarubicin(Annamycin)は、テキサス州Houstonに本拠を置く創薬ベンチャーのMoleculin Biotechが開発中のアントラサイクリン系薬剤。多剤耐性と心毒性を回避することを目標に設計され、適応は再発・難治性急性骨髄白血病(AML)、軟部肉腫だという。
同社はNaxtarubicinを90人の患者に投与し、78人のLVEF(左室駆出率)の変化を解析した。LVEFはベースラインからの平均変化-0.12%(p=0.84)で、独立した心臓専門医レビューによる心電図、心筋バイオマーカー、心血管有害事象、GLS(Global Longitudinal Strain)などによる心毒性評価でも、薬剤起因性の心毒性の証拠は認められなかった。
今回報告された臨床試験は非ランダム化解析であり、症例数も90と少ないために最終的な評価に至っていない。同社は第III相試験のMIRACLE試験を計画中であり、その結果が待たれる。

