クローン性造血が腫瘍循環器の指標にクローン性造血が腫瘍循環器の指標に

病原性の変異ではないものの長期的に健康に大きな影響を及ぼすことになる遺伝子変異"クローン性造血(CHIP)"が腫瘍循環器の新しいリスク指標として注目されている。CHIPの存在が造血器腫瘍などのがんと循環器疾患に共通するリスク因子となることが明らかになったためだ。日本臨床腫瘍学会学術集会(3月26~28日、会長:田村研治・島根大学医学部附属病院腫瘍内科/先端がん治療センター教授)の合同シンポジウム『腫瘍循環器診療で困ったらどうする -Beyond Onco-Cardiology Guideline-』では名古屋大学循環器内科助教の由良義充氏が「クローン性造血:がん診療と心血管リスクをつなぐ新しい視点」と題して講演した。由良氏は「クローン性造血はまだ腫瘍循環器のガイドラインでは言及されていないが、近い将来には掲載されることになる」との見通しを示した。

クローン性造血(CHIP: Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential)は、「体細胞変異(後天的変異)をもつ造血幹細胞(クローン)が骨髄で増殖した状態」と定義される。血液検査では血球数は正常であるもの、血球DNAを調べると遺伝子変異が検出されるいわゆる前白血病状態となっている。遺伝子の塩基配列を調べる技術革新が見出した新しい病気の状態だ。変異が起きる遺伝子の代表例としてDNMT3ATET2ASXL1などが知られる。

由良氏はこれまで動物にこれらCHIPを導入することによって、表現型にどのような変異が現れるかを追究してきた。例えば、DNAメチル化酵素であるTET2遺伝子が変異したマウスでは加齢とともに心収縮力が野生型マウスよりも急激に低下することを報告した。またCHIP変異のあるマクロファージが組織に侵入すると炎症性サイトカインを分泌し、動脈硬化や心不全を引き起こすことも見出した。また、Ppm1dに遺伝子変異を導入したCHIPマウスでは心不全が悪化することも明らかにした(Yura Y, et al.: Circ Res. 129(6): 684-698, 2021)。

講演のなかで由良氏は、「CHIPはアントラサイクリン心毒性と関連しており、さらには静脈血栓塞栓症とも関連している」と指摘した。海外からの報告(Gangaraju R, et al.: J Natl Cancer Inst. 117(11): 2394-2398, 2025)によると、リンパ腫患者の36.1%にCHIPを検出したほか、8年間の累積静脈血栓塞栓症の発症率はCHIP陰性群が3.6%であったのに対して陽性群は8.2%に達した。

由良氏は「CHIPの研究は始まって日が浅く、研究途上であり、対応のコンセンサスは得られていない」としながら、CHIPを標的とした治療の可能性も紹介し、現在可能性のある"治療薬"として、コルヒチン、ビタミンC、ラパマイシン、メトホルミン、AraCを挙げた。また食生活や喫煙習慣、DNA障害型の抗がん剤がCHIP発生を左右する可能性を紹介した。