国立がん研東病院、irAE心筋炎にアバタセプト投与で効果国立がん研東病院、irAE心筋炎にアバタセプト投与で効果

国立がん研究センター東病院(千葉県・柏市)循環器科の田尻和子科長のグループはirAE(immune-related Adverse Events)の一つである心筋炎の治療に、関節リウマチ治療薬であるアバタセプト(商品名:オレンシア)を試験的に投与している。まだ症例が少なく広く推奨することはできないがirAE心筋炎は発症すれば致死的であり、「重症な症例には薬剤を試していきたい」と同科長は語っている。

irAE心筋炎は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が誘発する副作用の一つで、重症化すれば致死的となるため、ICIの使用に際して最も注意を要する有害事象である。ICIの投与によって心筋自己抗原特異的なT細胞が活性化され、心筋組織を破壊するために起こると考えられている。

irAE心筋炎が起きた際にはgradeによらず、ICI投与を中止あるいは休薬するとともにステロイドのパルス投与を早期に開始することが最も重要である。しかし、劇症化し、体外循環回路によるECMOなどの機器が必要になる場合もある。

問題となるのはステロイド不応時。「がん免疫療法ガイドライン」では抗TNFα抗体や免疫抑制剤の使用を考慮することを推奨している(保険適用外)。

田尻科長が試験的に使用しているアバタセプトはT細胞を抑制する注射製剤(静注・皮下注あり)。適応は既存治療で効果不十分な「関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)」と「多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎」。irAE心筋炎の原因となる過剰に活性化したT細胞の働きを抑える効果が期待できる。

アバタセプトの使用法は関節リウマチの用法用量にしたがって「初回は60kg未満の場合500mgを点滴静注、60kg以上~100kg以下は750mg、100kg超では1gをそれぞれ点滴静注する」。田尻科長らは、この用法で治療を行っているが、効果が不十分な場合にはアバタセプトを増量することも検討するという。

irAE心筋炎が起こってしまった場合に、どのような対応が最良かはまだ試行錯誤が続いている状態だ。irAEは副作用であるが、同時に抗腫瘍免疫効果と不可分という特徴もあり、T細胞の活性を落とすことでICIに期待される作用を損なう懸念もあることから、双方のバランスを取るかじ取りが求められる。海外ではIL-6受容体抗体のトシリズマブを使う試みも報告されている。

このほか田尻科長はJAK阻害薬もirAE心筋炎治療薬の候補であると指摘した。「irAE心筋炎を生じた心筋にはJAK2分子が活性化しているとの報告もあり、ステロイド不応性のirAE心筋炎にはJAK1/2阻害薬が有望かもしれない。」本邦では骨髄線維症、真正多血症などの造血器腫瘍や造血幹細胞移植後の移植片対宿主病を適応にした分子標的治療薬ルキソリチニブが承認されている(irAEには保険適用外)。

講演する埼玉県立がんセンター副病院長の岡亨氏
国立がん研究センター東病院・循環器科の田尻和子科長。「新規がん治療薬のグローバル試験の患者登録にMRIによる心筋評価が求められるケースが増えている。腫瘍循環器の対応ができないとグローバル治験にも入れないようになる」と指摘している