第4回日本腫瘍循環器学会学術集会の開催:腫瘍循環器学のターニングポイントを捉えたい 第4回日本腫瘍循環器学会学術集会の開催:腫瘍循環器学のターニングポイントを捉えたい

第4回日本腫瘍循環器学会学術集会が2021年10月12日(火)から14日(木)までの3日間、オンラインで開催される。石岡千加史会長に学術集会の見どころ、プログラムに込めた思いを伺った。

石岡 千加史 会長
石岡 千加史 会長

腫瘍循環器という分野の現状をどのようにみられていますか。

石岡これは近年になって世界的に重要性が認められてきた新しい分野です。日本も遅れるわけにはいかないと思っています。これまではがんの専門医と循環器の専門医は接点をもっていませんでした。とりわけ私が専門とする腫瘍内科は進行がんの患者さんを主に診ていたことから、循環器の疾患よりもがんをどのように制御するかに注力せざるを得ませんでした。
しかし、2000年以降に登場した分子標的治療薬の登場によって進行がんの治療成績は年々、向上してきました。一方で、こうした分子標的治療薬の副作用により心血管系合併症を有するがん患者さんが増えてきました。さらに高齢化社会を迎えたわが国では心血管系疾患を合併する高齢のがん患者さんの数も増えてきました。このような状況から腫瘍内科の分野でも心血管系合併症は無視できないものになってきました。こうした背景から、2017年に日本腫瘍循環器学会が発足し、今回は第4回の学術集会を迎えることになったわけです。

第4回学術集会の会長としてどのようなことを目指していますか。

石岡テーマを『State of the art onco-cardiology 最新の腫瘍循環器学-わが国の現状と課題-』としました。腫瘍循環器学の最新の話題にフォーカスしつつ、日常診療における腫瘍循環器学領域の課題について広く議論したいと思っています。新型コロナウイルス感染症の流行のために完全ウェブ形式の開催ですが、活発な議論を続けていただきたく、プログラムを工夫しました。

腫瘍循環器学の未来を国際的な視点から展望

どのようなプログラムですか。

石岡腫瘍循環器は新しい領域ですが、国際的な連携を強く求められる領域です。特別講演1として、米国Duke大学Dukeがん研究所のSusan Faye Dent教授に「Cardio-Oncology: Viewpoint from an oncologist and founder of the Global Cardio-Oncology Summit (GCOS)」というテーマでお話しいただきます。米国テキサス州のMD Anderson Cancer Centerに世界に先駆けてOncology-Cardiology Unitが設立されたのが2000年、その後、腫瘍循環器を扱う施設が増え、2012年にGCOSが設立されたことで学術分野として確立しました。GCOS設立の中心となったDent教授に腫瘍循環器学の現状と今後を展望していただきます。
特別講演2は東京大学定量生命科学研究所の岡崎拓教授に「抑制性免疫補助受容体PD-1によるがん免疫と自己免疫の制御」というテーマで講演いただきます。免疫チェックポイント阻害薬の登場はがんの薬物療法にとって非常に大きな変革でしたが、重篤な心筋炎など腫瘍循環器学の重要な課題となっていますから、期待しています。

まだまだ基礎研究が必要

シンポジウム1は「Onco-cariology研究」というシンプルなテーマです。

石岡腫瘍循環器のイベントがどうして起こるのか。その疑問に答える基礎的な知見が不足しており、新しいサイエンスを必要としています。マウスや細胞を対象にした研究は欠かせませんが、同時に臨床と基礎からの双方向性アプローチも必要です。どのようなテーマを対象にどのような方法で臨むかを討議していただきたいと思います。
このほか、心血管障害への対応、女性医師のキャリア形成、がん関連血栓症の予防と治療、放射線関連心疾患などのシンポジウムを企画しています。またこの領域は腫瘍医と循環器医との連携ばかりではなく、医師と薬剤師との連携も必要です。シンポジウム5では、日本医療薬学会とのコラボレーション企画として、この問題を話し合っていただきます。医師と薬剤師の協働に加え、腫瘍循環器専門薬剤師の育成についても発表があります。
新しい試みである腫瘍循環器リハビリテーションもミニシンポジウムの形で取り上げます。心臓リハビリテーションに比べ、腫瘍循環器リハビリテーションは歴史も浅く、症例も少ないのですが、先駆的な取り組みをしている施設から報告していただく予定です。

腫瘍循環器学の課題を明確化する

心血管障害の診断と治療、メディカルスタッフとの連携、キャリア形成、リハビリテーション、ゲノム、iPS細胞の利用など非常に多彩なテーマですね。

石岡腫瘍循環器学はこれから伸びていくことが間違いない領域ですから、逆にいうと課題山積の状況です。問題が広く認識されてきたことからこれから飛躍することは間違いない分野であり、今がターニングポイントといえます。ですから未来を見据えた学術集会になることを期待しています。

石岡 千加史(いしおか・ちかし)氏

1984年東北大学医学部卒業、1988年同大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。1992年Massachusetts総合がんセンター研究員、1994年東北大学加齢医学研究所癌化学療法研究分野・助手、2003年同教授。2012年東北大学がんセンター長兼任、2015年東北大学病院副院長(研究担当)兼任。2020年東北大学大学院医学系研究科・医学部臨床腫瘍学分野教授に配置換え(加齢医学研究所臨床腫瘍学分野を兼務)。