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一般的な心不全治療薬が化学療法による心臓障害の予防に役立つ可能性

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一般的に心不全治療薬として処方される薬剤が、アントラサイクリン系薬剤を用いた化学療法を受けているハイリスクながん患者の心臓障害や心毒性リスクの低下と関連していることが、本日、American Heart AssociationのScientific Sessions 2024で発表された暫定的な最新科学的知見により明らかになった。

2024年11月16~18日まで米国シカゴで開催される本会議は、心血管学における最新の科学的進歩、研究、エビデンスに基づく臨床診療の最新情報を交換する世界有数の会議である。

「われわれは、がん治療中に心臓を保護するための有望な新戦略を特定した。これは、患者の治療に大きな影響を与える可能性があり、心臓病やがんの将来の研究にも影響を与える」と、ブラジルCuritibaにあるUniversity of São PauloのHeart Instituteの循環器専門医で、心不全と心臓移植の専門家である筆頭著者Marcely Bonatto氏(MD)は述べた。

「重要なことは、われわれの戦略によって、心機能障害発症リスクの高い人々を早期に特定することができ、心機能のさらなる低下を防ぐためのタイムリーな介入が可能になる。」

心不全は、心臓障害によって血液を十分に送り出すことができず、身体に血液と栄養を供給できなくなった場合に起こる。

アントラサイクリンは、乳がん、白血病、リンパ腫、サルコーマなど、多くの種類のがん治療に使用される化学療法薬の一種である。

しかし、その潜在的な副作用の一つに心筋症があり、これは心臓の筋肉の病気で、心臓が体の他の部分に血液を送り出すのが困難になる。

心筋症は心毒性の一種で、化学療法を含むがん治療によって引き起こされる心臓障害を指す。

SARAH臨床試験では、乳がん、リンパ腫、サルコーマ、または白血病の治療のためにアントラサイクリンによる化学療法を受けている患者114例を対象に、心不全治療薬サクビトリル/バルサルタン(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤:ARNI)がさらなる心臓障害を予防する効果を調べた。

本研究では、次のことが判明した。

  • プラセボ群と比較して、サクビトリル/バルサルタン群は、すでに心臓障害の徴候がある人のさらなる心臓障害の相対リスクを77%減少させた。患者の心毒性発生率の低下は、治療開始時から介入終了時(24週)まで評価された。
  • 参加者はサクビトリル/バルサルタン24/26mgを1日2回投与から開始し、目標用量である97/103mgを1日2回投与に達するまで、あるいは副作用なしに患者が耐えられる最高用量に達するまで、2週間ごとに漸増した。サクビトリル/バルサルタンの忍容性は概して良好であったと研究者らは述べている。
  • プラセボ群と比較して、サクビトリル/バルサルタン投与群は、24週間の介入期間終了時までに新たな心臓障害が生じる可能性が非常に低かった。サクビトリル/バルサルタン投与群は、心筋の長軸方向の収縮機能の指標であるGLS(global longitudinal strain)が平均2.55%改善したのに対し、プラセボ群は平均6.65%低下した。

「われわれの知見は、心臓保護の恩恵を受ける可能性が最も高いハイリスク患者を特定することの重要性を浮き彫りにし、その結果、低リスク患者に対する不必要な副作用や医療費を最小限に抑えることができる」と、Bonatto氏は述べた。

「これらの戦略からどのような人々が恩恵を受けるかを正確に特定することは、依然として大きな課題である。」

本研究にはいくつかの限界があった。参加者全員が心臓障害のリスクが高く、化学療法でアントラサイクリンを投与されていたことである(113例がドキソルビシン、1例がダウノルビシンを投与された)。この知見はリスクの低い患者や異なる化学療法薬により治療した患者には当てはまらない可能性がある。

その他の限界としては、この研究では6ヵ月の追跡調査後の心臓障害を考慮できなかったこと、生存期間や生活の質など他の要因については検討していないことである。

また、本研究はブラジルの一つの病院で行われたため、その結果が他の病院で治療を受けた患者には当てはまらない可能性がある。

研究参加者のほとんどが白人で、女性であったため、より多様な患者グループを対象とした追加研究が必要である。

本研究の背景と詳細は以下のとおりである。

  • SARAH試験には、ブラジルのCuritibaにあるErasto Gaertnerがん病院で化学療法を受けている成人がん患者114例が参加した。80.7%が乳がん、16.7%がリンパ腫、1.7%がサルコーマ、0.9%が白血病の治療中であった。
  • 参加者の平均年齢は52歳で、90%が女性、10%が男性と自認していた。参加者の92%が白人成人、7%が黒人または混血(Pardo)成人、1%がアジア人成人と自認していた。
  • 参加者全員が、血液中のトロポニン(心臓が損傷したときに放出されるタンパク質)が高いことで定義される既存の心臓障害のため高リスクと判断された。
  • 参加者は、心臓障害と機能の変化を評価するため、血液検査、心エコー検査と心臓MRI(磁気共鳴画像)による特殊な心臓検査を含む定期的な臨床検査を6ヵ月間受けた。
  • 調査は2022年3月~2024年8月まで実施された。
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