University of Pennsylvaniaの研究者らが、がん患者における心臓リスクに関する知見を発表
英語オリジナル版はこちらがんに対する治療とケアの発展はがん患者の生存を劇的に改善してきたが、これらの治療は心臓をはじめとする身体の他の部位を損傷する可能性もある。
米国心臓協会学術集会(American Heart Association's Scientific Sessions)2020において、University of Pennsylvania(Penn)のPerelman School of Medicineに所属する医師・研究者らはがん患者とサバイバーに対する心臓ケアについての知見を発表する予定である。
転移のある乳がん患者におけるサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の心血管毒性
臨床現場では、がん治療が心臓に及ぼす可能性のある潜在的なダメージを認識しているが、心血管有害事象(心不全、不整脈など)とサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬との関連性を示すデータはほとんど存在しない。
パルボシクリブ、リボシクリブ、アベマシクリブなどのCDK 4/6阻害薬は新規クラスのがん治療薬であり、ホルモン受容体(ER/PR)陽性、HER2陰性で転移のある乳がん患者の生存を有意に改善している。
CDK 4/6阻害薬の投与を1回以上受けた心血管疾患歴のない成人患者の16.8%で心血管有害事象が発生することが、Penn Cardio-Oncology医長兼Cardiovascular Medicine准教授であるMichael Fradley氏(MD)が主導するOneFloridaデータセットの解析で見出された。
これらの患者のうち、17.2%が死亡した。
「CDK 4/6阻害薬そのものは、これらの知見の独自の原因ではないが、心血管有害事象はこれらの患者でよくみられる。
あらゆる潜在的問題を最小限にするためにCDK 4/6阻害薬を投与されている患者は、積極的なリスク緩和戦略により管理されるべきである」とFradley氏は述べた。
Fradley氏は2020年11月13日10:00 am東部標準時(EST)/9:00 am中部標準時(CST)に座長のいるデジタルポスターセッションで同知見を発表する予定である。
これは、2020年11月17日9:30 pm EST/8:30 pm CSTの学術集会終了時まで、同集会のOnDemandコンテンツとして利用できる予定である。
共著者はPennのBonnie Ky氏、Nam Nguyen氏、Yiqing Chen氏、Avirup Guha氏、Jenica N. Upshaw氏、Yan Gong氏などである。
化学療法剤により誘発される心毒性の構造的特性
Cardiac Ultrasound Laboratory部長兼Cardiovascular Medicine教授であるMarielle Scherrer-Crosbie氏(MD, PhD)は、心臓イメージングが化学療法誘発性心毒性のメカニズムを理解する上でどのように手掛かりとなり得るかについての最近の進歩を再考察し、リスク患者を特定する予定である。
Scherrer-Crosbie氏の関心は、心血管の健康と血液悪性腫瘍(さまざまなタイプの白血病のように血液、骨髄、リンパ節を侵すがん)との間の関連性である。
同氏のグループの研究では急性白血病患者での心血管有害事象、特に心不全の高い発現率が示されている。
化学療法による治療後の患者の心不全リスクを特定するために、Scherrer-Crosbie氏は臨床および画像変数に基づくリスクスコアを開発した。
「われわれの目標は、潜在的心損傷リスクが最大の患者を臨床医が特定する手助けをすることであり、したがって、臨床医らは転帰を改善するためにさらに入念に治療計画を調整し患者を管理することができる」とScherrer-Crosbie氏は述べた。
同セッションは、抗がん治療/薬剤の心血管への作用に関するArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology(ATVB)誌セッション中に行われる予定である。
同セッションは学術集会のOnDemandコンテンツの一部であり、2020年11月13日10:00 am EST/9:00 am CSTの集会開始時から2020年11月17日9:30 pm EST/8:30 pm CSTの集会終了時までアクセス可能である。
腫瘍循環器学における新規の実践的概念
米国心臓協会(AHA)セッション中に、Cardiovascular Medicine, Epidemiology, and Cardio-OncologyのFounders准教授であり、Penn Cardio-Oncology Translational Center of Excellenceセンター長およびJACC: CardioOncology誌の編集長を務めるBonnie Ky氏(MD, MSCE)は、腫瘍循環器学分野での進歩、およびオーダーメード医療によりがん患者の心血管治療を改善する新たな方法について述べる予定である。
「命を救う可能性のあるがん治療は心臓に影響することがあると分かっているが、これらの潜在的有害反応は検出可能、治療可能かつ予防可能であると確信している」とKy氏は述べた。
「私にとって、患者が、がんを克服できるにもかかわらず、その後、心血管疾患を患うのは滑稽である。
どの患者に、なぜ、いつ、これらの心血管有害事象が発生するかを理解しようとわれわれは研究を行っていることから、最終的にわれわれはがん患者の生活を向上させることができる。」
血液検査、2Dおよび3D心エコー検査などの画像ツール、人の遺伝子構造のような新規のツールを使用することで、心機能の低下が発生する前にリスクが増大している患者を特定することが可能になるかもしれない。
がん患者での心臓保護を導くリスクの層別化ならびに心疾患の特定・予防・治療を行う取り組みなどのさらなる新規の戦略も存在する。