[1]
がん治療に伴う左室機能障害のマネジメント
Left Ventricular Dysfunction in Cancer Treatment: Is it Relevant?
Kenigsberg B, et al.: JACC Heart Fail. 6(2): 87-95, 2018 [PubMed]
かつて、がん治療に伴う重要な心毒性といえばアンスラサイクリンによる全身化学療法や放射線治療などに限られてきた。しかし近年はHER2阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、プロテアソーム阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬を含む分子標的治療でも循環器の有害事象と関連することが明らかになっている。がん治療におけるこれら分子標的治療の進展に伴い、循環器医に心毒性のリスクを評価し、無症候性、症候性の左心室機能の障害を管理することが求められるケースが増えている。本論文はがん治療に伴う左室不全の発症機序、スクリーニング、診断、治療を、米国心臓学会(ACC)の心不全の病期・ステージ分類(ACCF)を基にレビューしている。さらに、最適な治療アウトカムを獲得するために必要ながんのチーム医療に循環器医が積極的にコミットすることを提唱している。
[2]
乳がん治療における循環器疾患の注意点:AHAの科学的ステートメント
Cardiovascular Disease and Breast Cancer: Where These Entities Intersect: A Scientific Statement From the American Heart Association
Mehta LS, et al.: Circulation. 137(8): e30-e66, 2018 [PubMed]
米国心臓協会(AHA)が発表した乳がん治療に伴う循環器疾患(CVD)の科学的なステートメント。これら疾患の広がり、危険因子、治療の心毒性を解説するとともに乳がん患者のCVDの予防、治療について解説している。CVDは女性にとって最も多い死因であるが、乳がんは女性の健康に対する最大の脅威と考えられている。CVDと乳がんのリスク因子は、肥満や喫煙など重複しているものが多い。さらに、すでにCVDを罹患している場合は、乳がんによって左心室不全やCVDが悪化することが多く、がん治療の選択に影響することも考えられる。本論文では人種、加齢、脂肪摂取、飲酒などの食習慣、肥満、遺伝、運動、放射線治療による心毒性のバイオマーカーなど、この複合疾患における最新の研究をレビューしている。また心毒性を緩和するがん治療の在り方も主要な薬剤ごとに提言している。
<佐瀬先生コメント>
循環器医のための乳がん医療入門。医療の進歩に伴いサバイバーが急増しつつあるが、ハイリスク治療に伴う心毒性に加え、心血管危険因子を有するハイリスク患者に対するがん治療にも注意が必要である。ASCOから公表された腫瘍循環器の診療ガイドラインに対応し、がん治療前/がん治療中/がん治療後の心血管疾患予防/診断/治療に関する教育/診療/研究の基盤となる、AHAからの科学的ステートメント。
[3]
成人がんサバイバーにおける心筋障害の予防とモニタリング:ASCOガイドライン
Prevention and Monitoring of Cardiac Dysfunction in Survivors of Adult Cancers: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline
Armenian SH, et al.: J Clin Oncol. 35(8): 893-911, 2017 [PubMed]
米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発表した腫瘍循環器の診療ガイドライン。1996年から2016年までに発表された無作為化臨床試験(RCT)のメタ解析、観察研究のうち適格基準に合致した104の研究についてレビューしている。がん患者の心不全リスク(推奨1)として、心血管リスク(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満の2つ以上)、高齢(60歳以上)、心機能異常(LVEFが50~55%の境界域、心筋梗塞の既往、中等度以上の弁膜症)、高用量アンスラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン250mg/㎡以上、エピルビシン600mg/㎡以上)、高線量放射線照射(心臓が照射野に入っている場所で30Gy以上)、低用量アンスラサイクリン系薬剤+低線量放射線照射、低用量アンスラサイクリン系薬剤+抗HER2療法併用、低用量アンスラサイクリン系薬剤または抗HER2療法+心血管リスク、がん治療関連心機能障害(CTRCD)としての心機能異常を推奨している。さらにがん薬物療法施行中および終了後の「がん患者の心不全予防戦略」(推奨2~5)も推奨している。
<佐瀬先生コメント>
NIHの腫瘍(NCI)と循環器(NHLBI)の合同シンポジウム後、学際領域連携による最初の成果の一つ。ハイリスク治療に伴う心毒性に加え、ハイリスク患者に対するがん治療への対応も重要である。一方、低リスク治療や低リスク患者に対する頻回の検査は、不必要ながん治療中断や医療資源の逼迫など患者に負の影響をもたらす。ASCOは、AHA/ACCFの全面的協力を得て、腫瘍循環器診療ガイドラインを公表した。
<佐瀬先生コメント>
当初、腫瘍医と循環器医では心不全の定義が異なり、腫瘍医(CTCAE)は症状の出現から、循環器医(AHA/ACCF)は無症候性の心機能低下から、それぞれ心不全として対応していた。近年、腫瘍循環器学という患者中心の学際領域連携により、不必要ながん治療中断/中止の防止を共通目的として用語が統一された。今後、がん医療の進歩に伴う新薬の登場に対し、診療ガイドラインの対応が必要である。